先進国の中で、日本はジムの会員率が際立って低いのが現状です。筆者が海外で生活していた経験からも、外国ではジムに通うのが当たり前であり、男性でジムに通っていない場合「どうして?」と尋ねられることが多々ありました。一方、日本では逆にジムに通っていると「どうして?」と聞かれることが多いように感じます。
筆者自身は高校のラグビー部時代から筋トレを始め、20年以上続けてきました。現在も週に3~4回はジムに通い、筋トレは生活の一部となっています。しかし、最近では若者を中心にフィットネス人口が徐々に増えているように感じます。特にSNSの普及により、「筋トレ系インフルエンサー」の活躍が目立つようになりました。彼らはYouTubeやInstagramで鍛え抜かれた肉体を披露し、トレーニング法や食事管理、サプリメントの使い方を共有しています。その影響力は非常に大きく、多くの人が彼らに感銘を受け、憧れるようになっています。
しかし、彼らの華やかな活動の裏側には、「ドーピング」という影が潜んでいる可能性があることをご存じでしょうか?今回は、筋トレ系インフルエンサーの収入構造、成功の背景、そしてその裏側にある問題について掘り下げます。
筋トレ系インフルエンサーの収入源――成功の鍵は「完璧な身体」
筋トレ系インフルエンサーの収入源は、多岐にわたります。主なものとしては以下が挙げられます:
サプリメントのアフィリエイト収入
彼らがSNSで推奨するプロテインや今話題のEAAなどのサプリメントは、多くの場合アフィリエイトリンクを通じて販売されています。このリンクを経由して商品が売れると、インフルエンサーに一定の報酬が入る仕組みです。パーソナルトレーニングやオンラインコーチング
トレーニングプログラムや個別指導を提供したり、書籍を販売したり、そのノウハウを高額で販売しているインフルエンサーもいます。中には数万円から数十万円を超えるプログラムを展開するケースも。スポンサー契約や広告収入
アパレルの販売や器具メーカー、健康食品企業とのスポンサー契約は、インフルエンサーの主な収入源の一つです。また、SNSによる広告収入も無視できません。
これらの収入源の共通点は、「魅力的な身体」を強力なブランディングを基盤としている点です。筋肉美は彼らにとって商品そのものであり、その結果、より早く、より完璧な身体を手に入れるために「ドーピング」に手を出すケースが後を絶たないのです。
大会実績とドーピング――成功のための隠された道具
インフルエンサーが影響力を得るには、見た目だけでは不十分な場合があります。信頼性を高めるために、ボディビルやフィジークの大会での実績が重要視されます。優勝や上位入賞は、ブランド価値を高めるための強力なツールとなります。
しかし、大会で勝つためにドーピングを使う現実があります。日本国内には以下のような大会運営団体があります。
ドラッグテストを義務付けている団体(例:JBFF)
ナチュラル(薬物を使用しない)競技を目指しているが、テスト陽性者が発生することも。ドラッグテストのない団体(例:FWJ)
アンチドーピングを掲げるものの、薬物使用が暗黙の了解となっているケースが多い。
特に、アナボリックステロイドや成長ホルモンといった薬物は、短期間で筋肉量を劇的に増加させる効果があり、使用後も「マッスルメモリー」によって身体能力が優位に保たれることが知られています。このような状況下では、「ナチュラル」と「ユーザー」の境界が曖昧になり、消費者を混乱させる原因にもなっています。
情報弱者を欺く構造――インフルエンサーの影響力がもたらす問題
問題は、これらのインフルエンサーたちがドーピングを使用していることを隠し、あたかも「自分の努力と合法のサプリメントだけ」でその体を作り上げたように見せている点です。これにより、以下のような悪影響が広がっています:
過剰な期待を抱く消費者
「このサプリを飲めば、あのインフルエンサーのような身体になれる」と誤解する消費者が後を絶ちません。実際には、彼らの身体は薬物や非現実的な努力の産物であることが多いのに、真実は隠されたままです。高額商品の購入
信じて購入したサプリやトレーニングプログラムが、実際には効果がないことも少なくありません。なぜなら、あのかっこいい身体は、ドーピングによって作られているから。これを詐欺/誇大広告と言わずしてなんというのか。健康被害
個人的にはこれが最大の問題と捉えています。ドーピングによって不可逆的な健康被害(例、内臓機能の低下や障害、身体の女性化/男性化等)が出る例は多く報告されています。また、最悪の場合死亡することもあります。日本人の死亡例は以下の通りです。個人的に大好きなプロビルダー、マッスル北村も低血糖による心停止で死亡しています。
この現状を変えられる?:自衛手段を考える
結論から言うと、この現状を変えるのは難しい、というか不可能に近いと考えています。
<現状を変えるのが難しい理由>
日本ではステロイドが違法ではない
日本においてステロイドは、医師の処方がなかったとしても、所持も売買も違法ではありません。なぜなら、ステロイドは病気の治療に使われるという前提があり、個人の筋肉増強目的の使用を想定した法制度になっていないからです。自費でこうした薬物を購入することは合法であり、ネットで検索すればいくらでも出てきます。ちなみにアメリカでは1990年の「Anabolic Steroid Control Act」に基づき、スケジュールIII薬物に分類されており、医師の処方がないステロイドの所持、販売、配布が厳しく規制されています。
皆が求めている
かっこいい身体、超人離れした身体をみんなが求めている、というのが問題の根底にあります。上記のステロイドがアメリカで規制され始めた1990年、ボディビル世界一を決める「ミスターオリンピア」でも薬物テストが一度だけ実施されました。しかしそれ以降は一度も実施されていません。それはなぜか?例年に比べてナチュラルでは身体がしょぼくて、全く大会が盛り上がらなかったからです。すでにユーザーの身体に見慣れた、憧れを抱いた観客はもうナチュラルでは満足できなかったのです。今後日本で薬物規制が強化されても、同様のことが起こると推測しています。



0 件のコメント:
コメントを投稿