税リーグの問題点:「J リーグは誰のものか」を読んでの感想 前編

2025年1月28日火曜日

 

2024年8月、あるレポートが発行されて、一部で話題となりました。そのレポートのタイトルは「J リーグは誰のものか」。発行はANA総研で、以下で全文を読むことができます。https://www.anahd.co.jp/group/ari/human/report/pdf/report-2024-08-03.pdf

この内容、非常に興味深くいものでした。Jリーグの功績を称えつつ、現在のJリーグが抱える問題点を端的に、そして明快に指摘し、そして未来への提言も行っています。

今回は、このレポートの内容を紹介しつつ、現在のJリーグにおける問題に関して当方なりの意見を述べたいと思います。あまりにも長くなったため前後編にします!

レポート内容の要約:Jリーグの光と闇について

「Jリーグは誰のものか」を以下本レポートと呼称します。その内容をまず以下の通り要約しました。

<以下要約>

Jリーグの概要

  • 設立の背景: 1993年に発足した日本初のプロサッカーリーグ。地域密着型運営を基盤に、サッカー普及やスポーツ振興を目的としている。
  • これまでの功績:
    • ワールドカップ常連国として日本代表の地位向上。
    • スタジアム整備や育成システムの構築。
    • 地域経済やコミュニティ活性化に貢献。

Jリーグの課題

  1. スポンサー名を出せない問題

    • Jリーグは「地域名+愛称」を基本とするため、企業名をクラブ名に含めることができない。
    • 企業はスポンサーとして多額の支援を行っているが、NPB(日本プロ野球)のように社名やブランド名を大々的にアピールできない。
    • その結果、親会社は広告宣伝費を増やす形で赤字補填を行い続けているが、対価が見合わないとの声もある。
  2. 収益構造の偏り

    • 総収入の約46.6%がスポンサー収入に依存しており、収入源の多様化が進んでいない。
    • 入場料収入は全体の15.7%程度にとどまり、観客動員数の伸び悩みが要因。
  3. 売上に対する人件費の高さ

    • 各クラブのトップチームの人件費は、総費用の41.7%を占める(2023年度は約647億円)。
    • 入場料収入(238億円)を大きく超える金額で、健全な経営バランスとは言えない。
    • 例えば、浦和レッズの2023年度売上104億円に対し、人件費は39億円と非常に高い割合を占めている。
  4. 競技場問題

    • 多くのスタジアムが自治体所有で、税金に依存した運営となっている。
    • 利用頻度が低く、収益性が低い一方で、維持費が重荷になっている。
    • 自治体からの支援が縮小されるリスクが高まっている。
  5. 観客動員数の停滞

    • J1の観客動員数は1試合平均2万人弱で伸び悩み。
    • ホームでの試合数が限られるサッカー(通常月2-3試合程度)では1試合ごとの観客数を増やす必要があるが、現状では限界がある。

解決のための提案

  1. スポンサーの価値向上

    • スポンサー名を適切にアピールする方法を模索し、企業にとってのメリットを明確にする。
    • 放映権の収益を拡大し、スポンサー依存を減らす。
  2. 収益の多様化

    • 国際マーケティングを強化し、海外放映権収入を増やす。
    • 観客動員数を増やし、入場料収入の比率を高める。
  3. 経営効率の向上

    • 人件費削減や合理的な資金配分を行い、持続可能なクラブ運営を実現する。
    • 地域密着型のスポンサーシップや自治体との連携をさらに強化。
  4. 競技場の効率的利用

    • 競技場の多目的利用を推進し、稼働率を上げて収益を改善する。
    • 自治体と協力して運営コストを抑える仕組みを整備する。
<要約終わり>

痛烈な皮肉:「おわりに」を読んで

上記が本レポートの要約になりますが、当方が最も印象に残ったのが「おわりに」の欄です。これについてはそんなに長くないので以下の通り全文を引用させていただきます。

<引用>
J リーグは今後どこへ向かうのであろうか。現時点での J リーグはチーム名に企業名も 出せない親会社の資金により運営され、自治体によって建設された競技場を安価で使用 し、身の丈に合わない選手報酬を支払って運営されている。プロスポーツビジネスとしては成り立っておらず、宣伝媒体としても機能していない状態である。しかし一方で、J リ ーグの目的であった自然芝の競技場の建設やスポーツを通じて様々な世代の人が触れ合え る場の提供、及び代表チームの強化などは実現しているのである。J リーグが媒介となっ て企業と自治体の協力体制を構築し、より豊かなスポーツ文化の醸成には大きく寄与したといってよい。 アメリカのプロサッカーリーグ MLS は、リーグのブランド力を落とさないように運営し、裾野の拡大には関心を持たずトップリーグの価値の向上に努めた。それはそれでスポ ーツビジネスとしては成功であるが、社会への貢献という点では日本の J リーグの選択と その実績は奇跡といっても良いのではないだろうか。企業と自治体のサポートを最大限に引き出すこと以外に、プロサッカーリーグを日本で普及させる手段は無かったのかも知れない。もしもこれが J リーグ設立当初からの目論見であったのならば、企画立案チームの 戦略性は驚異的ですらある。 しかし、企業の資金に大きく依存した体制は不安要素が大きい。企業が不況になったと たんに瓦解する可能性も秘めている。企業に支えてもらっている間に、スポーツビジネス として成り立たせる必要がある。プレミアリーグやブンデスリーガも多くのスポンサー収 入を得ているが、それ以上に多くの放送権収入を得ている。競技場をどんなに大きくして
も観戦者は 10 万人程度であり、より多くの方に試合を楽しんでもらうためにはメディア を通じての観戦者を増やすより他にないのである。そしてこれはリーグが実力で勝ち取っ ている収入なのであり、企業の景気には直接的には影響されない体制を築いている。 J リーグも素晴らしい理念の下で、社会への貢献や代表チームの強化という面では大き な成果を挙げてきた。だからこそ今後の永続的な繁栄のためには、親会社の全面的な支援を受けているうちに、観客動員の増加とリーグとしての放送権収入の拡大を実現しなくてはならないプロスポーツとしてメインとなるこの二つの項目で、収入の7割程度を占め るようにしたいものである。そのためには観客動員は一試合平均で 3 万人を集めて 1 クラ ブ当たり20 億円に、放送権料に関しても 20 億円にするには今の 7 倍近くの契約料が必要になる。そのためには日本国内での拡大はもとより、諸外国のマーケット、とりわけアジアの取り込みは必須となってくる。J リーグ事務局は今まで共存共栄の思想のもと大きな実績を挙げてきた。J リーグの未来のためには乗り越えなくてはならない課題である。
<引用終わり>

Jリーグの功績について:後進国からわずか30年で強豪国に挑めるダークホースに

まず、Jリーグの功績については、以下の通りフェア見て認めるべき点は多いと考えます。
  • 日本代表の強化
日本代表の躍進は、Jリーグの存在が大きな鍵を握っています。かつてW杯出場すら夢のまた夢だった日本が、現在では出場を義務とし、大会のベスト8を本気で目指せる位置にあるのは、Jリーグの育成システムがその基盤となっているためです。たとえば、1998年の初出場以降、日本代表は安定してW杯に出場しており、その間に世界トップレベルの選手も輩出するまでになりました。特に、アーセナルの冨安やリバプールの遠藤、バイエルンミュンヘンの伊藤など、多くの日本人選手が欧州のビッグクラブに所属しており(活躍はこれから)、またブライトンの三苫、ラ・レアルの久保は押しも押されぬ主力となっています。これはJリーグの整備された育成環境が支えていると言えるでしょう。
  • 日本におけるサッカーの地位向上

Jリーグ誕生以前は、野球や相撲などが日本の主要スポーツの中心を占めており、サッカーは二次的な存在でした。しかし、Jリーグの成功によってサッカーは日本国内で一気に地位を高め、現在では幅広い世代から支持される国民的スポーツとなりました。

世界的に見ても、わずか30年で日本がアジアを代表するサッカー大国となり、ドイツやスペインといった強豪国をW杯で破るなど、その存在感はますます高まっています。

世界的大人気スポーツであるサッカーにおいて、日本は圧倒的後進国でした。欧州では100年を超えるクラブ、リーグが珍しくない中、Jリーグと日本サッカーが僅か30年程度で上記のような功績を成し遂げたのは、間違いなく快挙といえます。
現在の日本サッカーは、アジアではもちろん一流国であると胸を張って言えます。また、世界的に見ると、さすがに「強豪国」は意見が分かれるところですが、強豪国に挑む第二集団には間違いなく入るでしょう。その中でも、前回カタールW杯でドイツ、スペインを破るという大金星を挙げたことから、「ダークホース」と呼んでも差し支えない存在感を放っていると確信します。またどこか別の機会で詳しく日本代表と日本人選手の躍進の秘密には迫りたいと思います。

Jリーグの課題:税リーグと揶揄される問題点

一方で、功績だけでなく、Jリーグには大きな問題点があります。
本レポートの「おわりに」ではそれを痛烈に批判しており、「プロスポーツビジネスとして は成り立っておらず、宣伝媒体としても機能していない状態である。」と断じています。
簡単に言うと「Jクラブとそのサポーターは必要経費を全然負担していないのに、その補填を主に税金と親会社が負担している、なのにその実態を隠して地域密着だとか嘘をついている」という状態をして、スポーツビジネスとしても成り立っておらず、宣伝媒体としても機能していないと言っているのです。それぞれのポイントについて当方の意見を記載します。

1.プロスポーツビジネスとして成り立っていない
  • スタジアム建設費を自治体に負担させているのに、それを独占利用するJリーグクラブがみられる。
    • 現在では①湘南②秋田の例が話題になっています。要はJリーグが勝手に「スタジアム基準」なるものを作り、各カテゴリーに昇格するにはその条件を満たすホームスタジアムが必要というもの。じゃあ各クラブが勝手に作れよ、となりますが、50-100億円のスタジアムを自前で作れるクラブなど中々存在せず、その費用拠出を税金に求めているため、各地でもめているということです。
    • 問題は税金で作ったスタジアムなのに以下のような使われ方をしている点です。
    1. 天然芝が必須となっているため養生の時間が必要で、試合日以外もなかなか一般開放されない、解放されても高額になる場合が多い=公共性が低い
    2. 人口数十万人規模の街に、キャパ1万人こえのサッカースタジアムが必要なのか
    3. そもそもJリーグのホーム試合は年間20試合もないため、それだけでは採算がとれるわけがない
これで喜ぶのは建築業者と一部の関係者/サポーターだけですよね。
  • スタジアムの使用に関して、使用料や契約条件でトラブルになる場合がある。
    • 札幌ドームのコンサドーレ問題東大阪の花園ラグビー場問題が今話題になっています。
    • 札幌ドームは2002年日韓W杯のために新設された第三セクター保有のスタジアムです。もともと日本ハムファイターズとコンサドーレが両方ホームとして使っていましたが、札幌ドーム側の理不尽な要求やなぜかコンサドーレしか使わない天然芝の管理費用も実質日ハムが負担するような不平等な条件に耐え兼ねて日ハムは離別。現在札幌ドームは大赤字となり実質税金で補填し維持運営されている状態。これもコンサドーレは(一応使用料を払っているにも関わらず)「税金の負担で不相応に豪華なスタジアム使っている」と批判されても仕方ない状態です。
    • 花園ラグビー場はより複雑かつ元ラガーマンとして怒りを覚える事態です。詳細は元記事をご確認いただければと思いますが、これは行政の断固たる対応をもって解決に導いてほしい事案です。
  • 税金の負担、親会社の補填がありきなのに選手の給料が高すぎるとの指摘
    • これは指摘の通りとしか言えないですね。欧州5大リーグとの比較は以下の通りです。Jリーガーは生み出している価値に対して、コストを賄えていないのに、給料が高すぎる、と言わざるを得ない状況です。
    • 上記は各国の給与情報を1ユーロ=170円で日本円に換算したものです。データは2024ベースのものを①海外については主に各国リーグの報酬に関する調査サイト(例: CapologyやSporting Intelligence)から引用②Jリーグについてはオフィシャルサイトと年収ガイドの情報を参照しています。
    • 売上高における平均給与の比率をみるとJリーグは低すぎないか?と一瞬思いますが、当然欧州5大リーグはスタジアムについては自前で保有乃至正当な使用料を支払って使用しています。親会社、というか金満オーナーが法外なスポンサー料を支払ケースは欧州でも特に産油国傘下のチームにありがちではありますが、それも強化のための費用でありそもそもビジネスとして成り立ってないのにやっているケースは「欧州では」見当たりません。
    • サウジアラビアや中国はオフィシャルな財務データがまったく見当たらないので上記からは割愛していますが、中国はかつての最強チーム広州FCが親会社の破綻により解散。サウジアラビアもガラガラのスタジアムにスター選手を集めてみても、放映権料で元を取れているとはとても思えません。
2.宣伝媒体として機能していない
    • 赤字を親会社(責任企業)が補填しているのにJリーグの理念、という建前のせいで名前を出せず、宣伝効果すら得られないとの主張が本レポートにありますが、当方は違う考えです。
    • 本レポート中では多くのクラブに親会社(責任企業)が存在し、数億円~数十億円を広告費として拠出している実態があります。それは胸スポンサーやスタジアムの中の広告といった部分に使用されているものもありますが、チーム名の企業名を使えない、というハードルが存在するのは事実です。
    • もともと大企業のサッカー部からスタートしたチームも多いですが、現在は親会社も創設時期と変わっているクラブも多い状況です。町田ゼルビアがサイバーエージェントの資本力と独自の戦略で躍進を遂げているのは記憶に新しいところですね。
    • 個人的にはチーム名に親会社名が表記できるに越したことはないとは思います。一方で親会社やオーナーが全面に出て経営しているクラブもあり、もしかすると苦肉の策なのかもしれませんが、Jリーグが宣伝媒体として機能していない、は言い過ぎなのでは、と感じます。NPBやラグビーのリーグ1に比べれば効果は低いという点は同意です。
後編に続きます。





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