みなさんは、アメリカンフットボールの試合を観戦したことがありますか?ほとんどの方が「ない」と答えるでしょう。「ハーフタイムに有名アーティストが出るやつですね」「大きな人ががしがし当たり合う怖い競技ですね」「ラグビーとどう違うのですか?」といった声が聞こえてきそうです。正確な統計はありませんが、アメリカンフットボール(以下アメフト)は日本では約2万人しか競技人口がいないマイナー競技です。一方で、アメリカでは競技人口が約100万人を超えます。引退した方も含めると、男性は一生のうちに何らかの形でアメフトのプレー経験があると言われており、最も人気のあるスポーツとして親しまれています。
私は大学からアメフトを始め、現在も趣味でプレーしています。好きなチームはニューヨーク・ジャイアンツです。このアメフト、実は非常に儲かるスポーツで、巨額の資金、ビリオンドルが動く規格外のスポーツビジネスです。本場アメリカでは大学アメフトもすごい規模ですが、今回はそのプロリーグであるNFLのお金事情、市場規模、そして給料事情についてご紹介し、その凄さを感じていただければと思います。
NFLとは?アメリカのNo.1プロスポーツとしてのアメフト
NFL(National Football League)は、アメリカ最大級のプロスポーツリーグであり、アメフトの最高峰に位置付けられる存在です。全32チームで構成され、各チームが17試合のレギュラーシーズンを戦い、その後プレーオフを経て、最終的に「スーパーボウル」と呼ばれる決勝戦で王者が決まります。
NFLの誕生は1920年に遡ります。当初は「アメリカン・プロフェッショナル・フットボール・アソシエーション(APFA)」という名前でスタートしました。その後、数々の変革を経て現在の形に至ります。特に1966年、当時のライバルリーグであったAFL(アメリカン・フットボール・リーグ)との合併により、NFLは現在の強固な基盤を築きました。この合併によってスーパーボウルという全米規模の一大イベントが誕生し、NFLは一気に世界的な注目を集めるようになりました。
NFLのシーズンは通常9月初旬に開幕し、1月中旬にプレーオフが始まります。そして、毎年2月上旬に開催されるスーパーボウルは、単なるスポーツイベントを超え、アメリカ文化の一大行事となっています。試合の内容だけでなく、ハーフタイムショーや世界最高峰のCM枠が注目を集める点も特徴的です。
また、NFLの32チームは地域のアイデンティティを象徴する存在でもあります。それぞれのチームは独自の伝統や文化を持ち、ファンはそれを心から応援します。ダラス・カウボーイズのように「アメリカズ・チーム」と呼ばれるほど全国的な人気を誇るチームがある一方で、グリーンベイ・パッカーズのように人口10万人の小さな町でも、毎回ホームのランボーフィールド(キャパ約8万人)が満員になるなど、地元愛に根ざした存在もあります。
NFLの魅力は単なるスポーツにとどまりません。アメリカ文化の象徴として、ビジネス、エンターテインメント、そして社会的影響力を併せ持つ存在として、アメリカ人を魅了し続けています。
NFLの市場規模:すべてが規格外、スポーツビジネスの到達点
NFLがビリオンドル規模の市場を形成する背景には、いくつもの収益源があります。主な収益源として挙げられるのが以下の3つです。
- 放映権収入
- スポンサーシップ
- チケット販売
これらがどのように収益を生み出し、リーグ全体を支えているのかを詳しく見ていきましょう。
<放映権収入>
放映権収入はNFLの収益の中でも最大の割合を占めています。NFLはFOX、CBS、NBC、ESPNといった大手放送局と巨額の契約を結んでおり、その総額は年間100億ドルを超えると言われています。この契約により、各試合が全米規模で放送されるだけでなく、リーグ全体に安定した収益をもたらしています。また、近年ではAmazon Prime Videoなどのストリーミングサービスとも提携を進めており、新しい視聴層を取り込むためのデジタル化も加速しています。日本ではDaznのNFL Game Passという有料サブスクに加入すると視聴が可能です。いくつかのプランがありますが、開幕時点で年間3万円近くの支払いが必要であり、なかなかお財布には痛手となります…。
<スポンサーシップ>
次に、スポンサーシップもNFLの重要な収益源です。NFLはリーグ全体でのスポンサー契約だけでなく、各チームが個別にスポンサーを獲得することも可能です。スーパーボウルのCM枠は30秒で約700万ドル(2024年)とも言われており、この巨額の広告収入がNFLのビジネスをさらに支えています。また、飲料メーカーや自動車メーカーをはじめとする多種多様な業界がNFLとの契約を結び、その広告効果を活用しています。
特にテレビCMについてはアメフトと非常に相性が良い点が挙げられます。アメフトは攻守交替やタイムアウト、クォータータイムごとに小休憩が入れられ、そのたびにCMを流すことが可能です。サッカーやラグビーでは基本的に試合の前後およびハーフタイムにしかCMが流せませんが、この競技特性が大きな利益の源泉となっていると言えます。
<チケット販売>
さらに、チケット販売も大きな収益源です。NFLの試合は少なくとも4~5万人規模、多ければ約10万人の観客を動員し、スタジアムの運営だけでなく、グッズ販売や飲食販売などの周辺収益も大きな収入をもたらしています。一部の人気チームでは、シーズンチケットの待機リストが数年単位になることも珍しくありません。
例えば、当方が2019年にニューヨークでNFLを観戦した際、最前列のチケットが1,000ドル(当時約12万円)もしました。現在では一番安い席でも60~80ドル、平均すると200~500ドル程度です。
特にスーパーボウルはチケットが定価で高額になることで有名です。チケット価格と新車価格がだいたい同じくらいなんてよく言われています…。
こうした収益モデルを組み合わせることで、NFLは巨額の収益を生み出し、それをリーグ全体の運営、選手報酬、さらなる市場拡大に投資しています。
地域社会と経済へのインパクト
NFLは単に巨大な収益を生み出すだけでなく、地域社会や地元経済にも多大な影響を与えています。各チームの本拠地となる都市では、NFLが地域経済の重要な原動力となり、イベントや試合を通じて大規模な経済効果をもたらしています。
一つの例として、スタジアムの建設があります。NFLチームが新しいスタジアムを建設する際には以下表にとんでもない規模の投資が行われ、その過程で多くの雇用が創出されます。また、スタジアム完成後も試合開催による観光客の増加や地元飲食業の活性化など、地域経済にポジティブな影響を与えます。試合の日にはスタジアム周辺の飲食店やホテルが満席になるのはもちろんのこと、グッズショップやイベントスペースも活況を呈します。
特にスーパーボウルが開催される都市は特に大きな恩恵を受けます。スーパーボウルは2月に開催されるため、一般的には温暖な地域または寒冷地対応をしたドーム型のスタジアムで開催されます。この一大イベントは短期間に数万人から数十万人の観光客を呼び込み、その地域における観光業や宿泊業の収益を大幅に押し上げるのです。2024年にラスベガスで開催されたスーパーボウルでは、地域経済に約6億ドルの影響を与えたとの試算もあります。
このように、NFLはスポーツイベントを通じて、地域経済を活性化させる重要な存在となっています。それは単に娯楽としての価値を提供するだけでなく、社会全体にポジティブな影響を与える成功事例と言えるでしょう。
NFL選手の給料事情:選手はミリオンダラードリーマー
NFLの華やかな舞台の裏には、選手たちの驚くべき給与事情が存在します。リーグ全体でビリオンドル規模の収益を誇るNFLですが、その大部分が選手たちへの報酬として還元されています。では、具体的に選手の給料事情を詳しく見ていきましょう。
まず、NFL選手の平均年俸は約200万~300万ドルとされています。平均が、です。桁違いの年棒水準ですよね。ちなみにサラリーキャップ(チームの年棒総額上限)はが2億5,540万ドルとなっていますが、基本的には司令塔となるQB、そしてその他の中心選手が高年棒を占めています。というになるとその金額は一気に跳ね上がります。例えば、2023年にカンザスシティ・チーフスのQB、パトリック・マホームズ(彼のお父さんは以前大洋ホエールズの助っ人としてプレー)は、10年間で5億ドルというNFL史上最大の契約を結び、大きな話題を呼びました。
以前紹介した大谷翔平選手の給与に関する記事で世界のアスリートの給与事情にも触れています。ご参考までに気になるかたは以下記事をご覧ください。
https://www.sportsmoneytalks.com/2024/12/7.html
さらに、NFL選手の収入は契約金だけに留まりません。多くのスター選手はスポンサー契約やCM出演を通じて、追加の収入を得ています。たとえば、前述のマホームズは大手ブランドの広告に出演することで、年間数百万ドルの追加収入を得ています。
ただし、高額な報酬の裏には、厳しい競争と短いキャリア寿命という現実もあります。NFL選手の平均キャリア期間はわずか3~4年と言われています。新人の頃に3-4年の契約を結んで入団し、その多くの選手が契約を更新できず、後進に道を譲る形で短期間で収入のピークを迎えます。そのため、引退後の生活設計や資産管理が非常に重要となっています。近年では、NFLが引退後の選手を支援するプログラムを提供し、キャリア終了後の安定した生活をサポートする動きも見られます。
他スポーツとの比較:NFLのここが凄い
当ブログでは「他のスポーツと比較することで見えてくるものを考察する」というテーマがあります。そのため、NFLの凄さについて、スーパーボウルの視聴者数、という観点をもとに他のスポーツと比較することで分析していきましょう。
・各スポーツイベントの推定視聴者数を記載
・基本的には2024年のデータを使用。その他は年を記載。
<アメリカの中では圧倒的>
スーパーボウルはアメリカ最大のスポーツイベントであり、その視聴率は他のどのスポーツイベントも超える圧倒的な数字を誇ります。2024年に行われた第58回スーパーボウルでは、カンザスシティ・チーフスとフィラデルフィア・イーグルスが対戦し、平均視聴者数が約1億1,390万人、瞬間最大視聴者数は1億2,100万人に達しました。全米の約2人に1人が試合を観戦した計算になり、スーパーボウルが「アメリカの非公式な祝日」として根付いていることを証明しています。スーパーボウルがこれほど高視聴率を誇る理由は、その「一発勝負」の緊張感に加え、試合を盛り上げる豪華なハーフタイムショーや高額なCMなど、総合的なエンターテインメント性にあります。スポーツファンだけでなく、普段スポーツを観ない人々も巻き込むこのイベントは、全世界での視聴者数が2億人以上と公式で発表されています。
歴代のスーパーボウル視聴率もまた圧巻です。過去最高の視聴者数を記録したのは2015年の第49回スーパーボウルで、1億1,490万人を達成。これらの視聴率は、他のスポーツイベントを大きく引き離しています。上記表のMLBワールドシリーズやNBAファイナルと比較した場合、合計視聴者数でもまだスーパーボウルが勝っています。当方がかつて所属していた会社の米国法人では、スーパーボウルの日は日本人駐在員が現地の社長の家に集まって皆で見るというイベントがあったと聞いています。
またアメリカの地上波の視聴率ランキングのベスト5の内2つがスーパーボウルです。
<世界展開が課題>
全世界で2億人が視聴するスーパーボウルですが、上には上がいるということで、サッカーのグローバルな人気には視聴者数ではなかなか敵わないのが現状です。欧州、アフリカ、アジアという世界人口の7割近い地域でNo.1の人気を誇るスポーツは伊達ではないですね。
特にW杯決勝は4年に一度、そして一発勝負、ということもあって、スーパーボウル以上の特別感、そしてそこに至るドラマの結末としての盛り上がりがこの圧倒的な人数に表れています。毎年のCL決勝も全世界で放送されるため、約4億人とスーパーボウルの倍の結果になりました。
インド15億人市場を圧倒しているクリケットが出てくるのも興味深いところ。日本では全くなじみのないスポーツですが、ファン数という観点からするとサッカーに次ぐ規模をすでに持っているといえます。
一方で、その他のスポーツにはスーパーボウルが勝っており、人口3億人、世界経済を圧倒的にけん引する、スポーツビジネスの本場アメリカを抑えていることの強さは何とか示せた格好になりました。


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